「好き」という気持ちに、恋愛だけが答えではないと気づいたのは、いつからだったでしょうか。失恋を重ね、結婚を経験し、そして離婚を乗り越えて。

傷ついて、立ち上がって、また歩き始めて。
そんな道のりを経た今、ようやく見えてくるものがあります。

それは、恋人にならないという選択が、時として一番の愛情表現になることもある、ということ。

ミユキさんのお話は、そんな私たちの心に、静かに寄り添ってくれるはずです。

朝までファミレスで過ごせる関係


「朝までファミレスで過ごせる関係」は、言葉にしない信頼と、無理のない親密さで成り立っているようです。

始発まであと2時間。ふたりきりの夜明け

週末の昼下がり、都内のカフェでミユキさんと待ち合わせをしました。
落ち着いた雰囲気の彼女は、コーヒーカップを両手で包み込むようにして、あの夜のことを話し始めました。

──その日は、どんな状況だったんですか?

「遠方から来た共通の友人との飲み会だったんです。久しぶりに会えるってことで、いつもより盛り上がっちゃって。気づいたら終電もとっくに過ぎていました」

彼も同じく終電を逃していたそうです。

「彼が『あと2時間くらいで始発だし、どっかで時間つぶそうかな』って言ったんですよ。で、私が『じゃあ私も行っていい?』と聞いてOKもらったんです。もともと夜更かしは平気なタイプですし、彼と話すのが好きだったので」

──自然な流れだったんですね。
「そうなんです。特別なことじゃなくて。ふたりで24時間営業のファミレスに入って、ドリンクバーのコーヒーを片手に、仕事の話とか、最近見た映画の話とか。本当に何でもない会話でした」

10年以上続く、特別な友情

──彼とは、どのくらいの付き合いなんですか?
「20代後半に共通の友人を通じて知り合って、もう10年以上になりますね」
ミユキさんは少し懐かしそうに微笑みました。

「彼、すごく話しやすいんですよ。変に気を使わなくていいというか。仕事で嫌なことがあったときは愚痴を聞いてもらったり、逆に彼の相談に乗ったり。対等な関係っていうんですかね」

──長い友人関係を保つ秘訣は?
「ああ、ひとつルールがあるんです。彼に彼女がいるときは、ふたりで会わないようにしていました

──それは暗黙の了解だったんですか?
「そうですね。やっぱり彼女がいるのに、ふたりで会うのって気まずいじゃないですか。だから彼女がいるときは、グループで会うようにしていました。それが自然でしたし、お互いにとっても自然だったんだと思います」

「好き」なのに、恋人にはなりたくない

「好き」なのに、恋人にはなりたくない。その曖昧な感情の奥には、依存への不安や自分を守るための距離感が隠れているのかもしれない。

朝5時、窓の外が明るくなり始めて

──ファミレスで、何か特別なことがあったんですか?
ミユキさんは少し視線を落として、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めました。

「朝5時を過ぎた頃、窓の外がうっすらと明るくなり始めたんです。もうすぐ始発の時間だなって。向かいの席でスマホを見ている彼を、ぼんやりと眺めていたら……」

──その時、何を思ったんですか?
「ふと思ったんです。『ああ、私、この人のこと好きなんだな』って。
でもすぐに『でも、恋人にはなりたくない』って思いました。
自分でも不思議でした」

好きだけど、恋人にはなりたくない。一見矛盾しているようなこの気持ち。
でもミユキさんの中では、それは明確な答えでした。

歴代彼女を知っているからこそ

──どうして「恋人にはなりたくない」と思ったんでしょうか?
「彼って、モテるんですよ。10年以上の付き合いの中で、何人か彼女を見てきました。で、その彼女たちって、みんな私とはタイプが違うんです」

──どんなタイプの方が多かったんですか?
「華やかで、社交的で、パッと目を引くような女性が多かったですね。私はどちらかというと地味で、内向的なタイプなので」

ミユキさんは自嘲気味に笑いました。

「もちろん、友達としては私のことも大切にしてくれます。でも、恋愛対象としては、きっと違うんだろうなって。
それに、彼はモテるから、私が彼女になったとしても、安心できる関係を築けるとは思えなくて」

──彼の恋愛パターンを知っているからこその判断だったんですね。
「そうなんです。冷静に考えたら、私は彼の『本命』にはなれないだろうなって」

失いたくないもの、守りたい距離感

踏み込みすぎず、手放しもしない距離を選んできた。恋愛の名前をつけないことで守られている関係も、確かに存在する。
「失いたくないもの、守りたい距離感」は、臆病さではなく、相手と自分を大切にするための静かな選択なのかもしれない。

一線を越えたら、壊れてしまう関係

──他にも理由があったんですか?
ミユキさんは少し間を置いてから、静かに頷きました。

「正直に言うと、性的な魅力は感じるんです。かっこいいなって思いますし、ときめくこともあります。
でも、一線を越えたら、今までの対等な関係が壊れそうで怖いんです

──過去に、そういう経験が?
「ありますね。付き合う前は対等だったのに、恋人になった途端、バランスが崩れてしまったことが。別れた後、友達に戻れなかった苦い記憶もあります」

ミユキさんはコーヒーカップを見つめながら、続けました。

「彼との関係は、10年以上かけて築いてきたものなんです。この人と話していると、素の自分でいられる。それって、恋愛関係よりも貴重なものなんじゃないかって思うんです」

自分の依存しやすい性格を知っているから

──もうひとつ、大きな理由があるとお聞きしましたが。
「はい。それは、自分自身の性格をよく理解しているからです」

──どういうことでしょう?
「私、恋愛すると尽くしすぎちゃうんです。相手のことばっかり考えて、自分のこと後回しにして。で、気づいたら依存している。過去の恋愛で、何度もそのパターンを繰り返してきました」

ミユキさんは離婚も経験しています。元夫からのモラハラとDVがあり、それでも離れられなかった自分がいたといいます。

「結婚していたとき、元夫からひどい言葉を浴びせられたり、暴力を受けたりしていました。でも、その時は『私が悪いんだ』って思い込んでいて。依存してしまっていたんです」

──それは、とても辛い経験でしたね。
「ようやく離婚して、自由になって。今は、自立していたいんです。誰かに頼りすぎない、自分の足で立っている自分でいたい。彼と恋愛関係になったら、きっとまた同じことを繰り返してしまう。それが怖いですし、今の自分を守りたいんです。私の知らない彼のイヤなところ、ダメなところを受け入れる自信もないですし(苦笑)」

──39歳になって、ようやく手に入れた自立ということですね。
「そうです。それを手放したくないですし、せっかくの友達を失いたくないんです」

恋愛じゃない「好き」があってもいい

──あの朝、ファミレスを出た後はどうされたんですか?
「始発の時間が近づいて、ふたりで駅まで歩きました。明るくなった街を歩きながら、心の中で思っていたんです。『この人と恋人になれたら、きっと楽しいんだろうな。でも、それ以上に、この関係を失いたくない』って」

──友達として、ずっとそばにいてほしい。
「はい。何でも話せる相手として、ずっとそばにいてほしいんです」

──恋愛じゃない「好き」があるということですね。
「そうなんです。ときめくけれど、恋人にはならない関係。若い頃には理解できなかったかもしれません。でも、39歳の今だからこそ、その価値がわかるんです」

ミユキさんは少し照れくさそうに笑いました。

「誰にも言えないけど、ときめくことはあります。でもそれを恋愛に発展させないって選択も、ありだと思うんです。恋愛がすべてじゃないですし、この年になると、失いたくない関係のほうが大事になってくるんですよね

──彼には、この気持ちを伝えましたか?
「いいえ。言葉にしてしまったら、この絶妙なバランスが崩れてしまいそうで」

改札で彼と別れて、電車に乗り込んだミユキさん。
窓に映る自分の顔を見て、小さく微笑んだそうです。

朝までファミレスで過ごせる男友達。
それは、恋人以上に特別な存在なのかもしれません。

恋人以外の選択肢があってもいい

インタビューを終えて、ミユキさんを見送りながら考えました。
失恋も、離婚も経験してきた39歳。
もう恋愛はこりごり、と思いながらも、心のどこかで小さくときめいている。
でもそれを口にすることはない。

恋人にならない選択。
それは、臆病なのかもしれません。
でも同時に、大切なものを守るための、賢い選択でもあるのです。

アラフォーの恋愛は、白黒つけるものではありません。
グレーゾーンで揺れながら、それでも自分らしく生きていく。
そんな選択もあっていいのではないでしょうか。

傷ついた経験があるからこそ、大切にしたいものが見えてくる。
臆病になった心があるからこそ、守りたい関係がわかる。

それは、決して後ろ向きなことではありません。むしろ、自分を大切にすることを学んだ証です。
恋愛に疲れたあなたも、もう一度誰かを好きになることが怖いあなたも。

ときめく気持ちと、現実的な選択の間で揺れることがあっても、それでいいんです。
その揺れも、あなたらしさなのですから。

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文/AKI