
「重い女」というレッテルを恐れて、つい笑顔の仮面を被ってしまう。そんな経験、あなたにもありませんか?
過去の傷が深ければ深いほど、私たちは「普通」であろうと必死になります。
今回は、壮絶な離婚劇を経て、現在は沖縄の離島で静かな生活を送る美央さん(39歳・仮名)にお話を伺いました。
アラフォー世代が抱える「優等生ゆえの孤独」と、その先にある希望について考えてみましょう。
サヨナラの後の「空白期間」
大きな別れを経験したあと、すぐに次へ進める人ばかりではありません。
むしろ多くの場合、気持ちが追いつかないまま時間だけが過ぎていく「空白期間」が訪れます。
誰かを好きになることに慎重になったり、自分の本音をうまく言葉にできなくなったりするのは、ごく自然な反応です。
この期間は立ち止まっているように見えても、心を整え直すために欠かせない大切な時間でもあります。
島風が教えてくれた何もしない贅沢
心に深い傷を負ったとき、必要なのは言葉ではなく、ただ流れる時間そのもの。
東京という戦場を離れた彼女が、南の島で見つけた「心の安全地帯」の正体とは。
ーー美央さんは、5年にも及ぶ裁判を経て離婚されたそうですね。当時の心境を伺えますか?
「判決が出た瞬間、やっと終わったという安堵感よりも、砂のように崩れ落ちていく感覚でした。
元夫からは、身に覚えのない不貞や家計管理の杜撰さを責め立てられ、最後は心療内科に通うほど追い詰められていたんです。
心も体もボロボロで、東京の街を歩くことすら怖くなってしまって……。それで、逃げるように沖縄の離島へ向かいました」
ーー離島での生活は、どのような変化を美央さんにもたらしましたか?
「最初は、ただ波の音を聞いて、風に吹かれているだけでした。あえて何も決めない、何もしない。
それが私にできる唯一の自己防衛だったのかもしれません。
でも、次第に自分を取り戻していくのを感じました。
島での生活を支えたのは、事務のリモートワーク。画面越しに数字や文字を淡々と処理する時間は、最高のリハビリでした。
誰とも顔を合わせず、私の過去を知る人もいない。
『普通の人』を演じる必要がない場所を、仕事の中に確保できたのは大きかったですね」
島人(しまんちゅ)とのゆんたくで溶け始めた警戒心
ーー地元の方々との交流もあったのでしょうか。
「はい。最初は『過去を詮索されるかも』と身構えて、敬語で壁を作っていました。
でも、島の人たちは私の経歴なんてこれっぽっちも興味がない(笑)
ただ『野菜があるから食べなさい』とか『海が綺麗だね』と声をかけてくれる。
そんな打算のない素朴な優しさに触れたとき、ようやく深呼吸ができた気がします。
男女問わず、一人の人間として笑い合える感覚を、島が思い出させてくれました。」
「地雷オンナ」認定が怖い
新しい場所で出会う人たちに、どこまで自分をさらけ出していいのか。
過去を隠そうとすればするほど、笑顔は少しずつ重く、硬い仮面へと変わっていきます。
ーー島での生活でも、恋愛や過去のことは話さないようにしているんですか?
「そうですね。離婚歴ってわかると引かれる気がして。だから『前の職場がきつくて転職した』とか、ぼかして話すようにしています。
なんか、それが癖になっちゃったんですよね。誰かと仲良くなりそうになると、頭の中で警報が鳴るんです。
もし過去のDVの話をしたら? 5年の裁判の話をしたら?
『この人、闇が深そうだな』と引かれてしまうのが、何よりも怖い。
だから、つい無理に明るく振る舞って、悩みなんて一つもないフリをしてしまうんです」
感情を出すのは「迷惑」? 過去の呪縛が解けない理由
ーーそれって、元の夫婦関係の影響もありますか?
「あると思います。
感情を出すたびに『大げさ』『うざい』って言われてきたから、感情を出すこと自体が『迷惑をかけること』みたいにインプットされてしまって。
それが今でも全然抜けないんです。
聞き役に徹して自分の話を引き延ばすのは、私が自分の傷を見せたくないための防御策でしかないんですよね」
「重い=悪」という思い込み。アラフォー女性を縛る透明な鎖
こうした心理的なパターンは、DVやパワハラを受けた人に非常によく見られる自衛反応です。
美央さんが「重い」を恐れるのは、彼女自身の問題ではなく、そうさせられた結果。
一度失敗しているからこそ、次は失敗したくない。でも、その慎重さが相手には『重圧』として伝わってしまうのではないか。
『サバサバしていて、過去に執着していない女』
そんな理想像を追いかけるうちに、自分の本当の感情がどこにあるのか分からなくなってしまう。
これがアラフォーの恋愛の難しさかもしれません。
いつか、ちゃんと誰かに話せる日が来るかもしれない
過去は消せない。
でも、過去に怯える自分を許すことはできる。
不器用な自分を抱きしめた先に待っていたのは、無理をしない「今の自分」との再会でした。
ーー今後、恋愛することは考えていますか?
「考えていないわけじゃないんですよ、正直(笑)
でも、また同じことになったらって思うと怖くて。
それに、離婚のこととかぜんぶ話したら引かれるじゃないかって。だから『この人、いいかも』って思っても、自分からブレーキをかけちゃうんですよね。
でも最近、少しだけ思うのは、もしかして『重い』ってそんなに悪くないんじゃないかなって」
完璧主義を捨てたときに開く、新しい扉
ーーそのブレーキを外す方法はあると思いますか?
「ちゃんと事情を話して、それで離れていく人は離れていけばいいというか。
過去を隠し続けながらいる関係って、最終的には苦しくなるだけだし。
学生時代は『オール5』を目指すようなタイプだったけれど、人生に正解なんてありません。
不当に責められた裁判中も、自分が悪いのではないかと自責の念に駆られていたけれど、今はもっと適当でいいんだと思えるようになりました。
相手にどう思われるかより、自分がどうありたいか。
そう自分に言い聞かせています」
恋愛の再開は「リハビリ」から。焦らず自分のリズムを守る勇気
美央さんは少し間を置いてから、こう続けてくれました。
「いつか、ちゃんと誰かに話せる日が来たらいいな、とは思っています。自分のことを、過去ごと。それができる相手がいたら、それが『好きな人』なのかもしれないって、なんとなく思い始めていて。
無理に明るく振る舞わなくても、静かに隣にいてくれる人がいつか現れたらいい。
今は、自分のために淹れるコーヒーの香りや、窓から見える海の青さを愛でる時間を一番に考えています。
自分が満たされていれば、他人の目線も気にならなくなってくると信じています」
まとめ
美央さんの話を聞いていて、「重い女」という言葉の残酷さを改めて思いました。
感情を持ち、傷つき、それを誰かに打ち明けようとすること。
それは人間としてごく自然なことなのに、それを「重い」と切り捨てる言葉が、どれほど多くの女性の口を封じてきたことか。
過去に傷を持つアラフォーの女性たちの多くが、美央さんと似たジレンマを抱えています。
恋愛したいけれど怖い。自分をわかってほしいけれど、引かれたくない。明るく見せていれば、誰にも心配をかけずにいられる。
でも、美央さんが島の暮らしのなかで少しずつ気づいてきたように、過去を隠して演じ続ける関係は、長続きしません。
「重い」と感じさせる過去があるなら、それはあなたがそれだけのことを乗り越えてきた証拠でもあります。無理に明るく振る舞うのをやめたとき、あなたの瞳には、偽物の笑顔よりもずっと深い輝きが宿るはず。
沖縄の離島で海を見ながら、美央さんはそれをゆっくりと自分のものにしつつあります。
恋愛への扉は、まだ開いてもいないかもしれません。
でも、その扉の前に立って、鍵を探し始めている。
それだけで、十分すごいことだと思うのです。
まずは、自分自身に「よく頑張ったね」と言ってあげてください。
焦らず、ゆっくり、でいいんです。
文/AKI