
「恋愛がすべて」と思ってきた人と、「恋愛感情を持たない」人。一見、正反対に見える二人が語り合ったら、何が見えてくるのだろう。
今回は、恋愛体質を自認するアラフォー女性・リオさん(仮名)と、アセクシャル(他者に恋愛感情や性的魅力を感じない性的指向)である友人の結子さん(仮名)に、それぞれの恋愛観や生き方について語ってもらった。
話を進めるうちに見えてきたのは、立場は違えど「自分らしく生きること」への共通の葛藤と、そこから見出した答えだった。
「恋愛してないと不安」と「恋愛に興味がない」、お互いの本音
二人の関係性は、大学時代からの友人同士。卒業後も定期的に会っては近況を報告し合う仲だが、お互いの恋愛観について深く語り合ったことはなかった。
今回、初めて本音で語り合ってみることに。
リオさん「恋愛してないと、自分が空っぽに感じるんです」
リオ:正直に言うと、恋愛してない期間がすごく怖いんです。恋愛というより彼氏がいない状態が落ち着かない。
誰かを好きでいる時間があると、毎日が輝いて見える。
勉強も仕事もやる気が出たし、同じ職場に彼氏がいたときは、毎日のメイクや服装選びも楽しみだった。
でも、恋が終わった瞬間に、急に世界が色を失ったように感じる。「次はいつ誰かを好きになれるんだろう」って不安になって、つい焦って出会いを探してしまう。
結子:へえ、そうなんだ。私、それが全然理解できなくて。恋愛ドラマとか見ててもピンとこないし、友達が「好きな人ができた」って言ってるときの高揚感も、正直よくわからないんだよね。
リオ:そっか……逆に聞きたいんだけど、結子は誰かを「好き」って思ったことがないの?
結子:友達として好き、とか、尊敬できる人として好き、っていうのはあるよ。でも、「この人と恋愛したい」とか「キスしたい」とかは、一度も思ったことがない。
それが普通だと思ってたから、周りがみんな恋愛の話ばかりしてるのを見て、正直戸惑ったくらい。
結子さん「『普通じゃない』と言われ続けた20代」
結子:20代の頃は本当に辛かったな。周りの友達はみんな彼氏の話をしてて、「結子も誰か好きな人いないの?」って聞かれるたびに、どう答えていいかわからなくて。
「まだいい人に出会ってないだけ」って言い訳してたけど、本当は違うってわかってた。
リオ:それ、言われるとプレッシャーだよね……。恋人がいなかったり独身でいたりすると「彼氏いないの?」「まだ結婚しないの?」って言われるけど、それとはまた違うしんどさなんだろうな。
結子:うん。「アセクシャル」っていう言葉を知ったのは30歳過ぎてからで、それまでは自分が「おかしい」んだと思ってた。
でも、調べてみたら、同じような人がたくさんいて。別に病気でもないし、治すべきものでもない。ただ、そういう指向なんだって理解できたとき、すごく楽になった。
リオさん「恋愛依存だった自分に気づいた瞬間」
リオ:私も30代半ばで気づいたことがあって。ずっと「恋愛体質」って自分で言ってたけど、実は「恋愛依存」だったんじゃないかって。
誰かを好きでいないと、彼氏がいないと、自分の価値を感じられないっていうのはちょっと危険だなって。
結子:それ、すごくわかる。私も逆の意味で、「恋愛しないことに罪悪感を持ってた」から。
社会が「恋愛して当たり前」「結婚して当たり前」っていう空気だから、それができない自分は欠けてるんじゃないかって思ってた。
リオ:結局、どっちも「普通」っていう枠に縛られてたんだね。
幸せの形は人それぞれ——お互いの生き方を知って
話が進むにつれて、二人の間には不思議な共感が生まれていった。恋愛に対するスタンスは正反対でも、「社会の価値観に縛られてきた」という経験は共通していた。
ここからは、それぞれが見つけた「自分らしい幸せ」について語ってもらった。
結子さん「恋愛がなくても、私の人生は豊かです」
結子:アセクシャルだとわかってから、無理に恋愛しようとするのをやめたんだよね。そしたら、すごく楽になった。
時間もエネルギーも、自分の好きなことに注げるようになって。今は年に数回海外旅行に行ったり友達と飲みに行ったり、マイペースなそういう時間が何より幸せ。
リオ:それ、すごく素敵だと思う。私、恋愛してるときって、相手に合わせすぎて自分のこと後回しにしがちだったから。
結子の話を聞いてると、「恋愛がすべてじゃない」って改めて思える。
結子:でも、恋愛を否定してるわけじゃないんだよ。恋愛が好きな人は、それを楽しめばいいと思う。ただ、恋愛しない人生も、ちゃんと価値があるんだって、もっと認められてほしいなって思うだけ。
認めなくてもいいから、放っておいてって(笑)
リオさん「恋愛体質でもいい、でも軸は自分に」
リオ:最近、恋愛との距離感を見直してるんだよね。誰かを好きになるのは楽しいし、それ自体は悪いことじゃない。
でも、「恋愛してないとダメ」っていう思い込みは手放そうって決めた。ひとりの時間も大切にして、自分の軸を持つこと。
それができて初めて、健全な恋愛ができるんじゃないかって。
結子:いいね、それ。リオらしい答えだと思う。恋愛体質なのは個性だし、それを否定する必要はないよね。
ただ、恋愛に振り回されるんじゃなくて、ちゃんと自分を持った上で楽しむっていうのが大事なのかも。
リオ:そうそう。結子の話を聞いて思ったのは、結局「自分を大切にする」っていうのは、恋愛してもしてなくても同じなんだなって。
「誰かと一緒じゃなくても幸せ」を認め合う
結子:私が一番嬉しかったのは、「ひとりでも幸せでいい」って思えるようになったこと。誰かとパートナーシップを築く人生もあるし、友人や家族との関係を大切にする人生もある。
どれが正解とかじゃなくて、自分が心地いいと思う形を選べばいい。
リオ:それ、本当にそうだね。私も、「結婚しなきゃ」とか「彼氏いなきゃ」っていうプレッシャーから解放されたら、もっと楽に生きられる気がする。
結子みたいに、自分の人生を楽しんでる姿を見てると、「ああ、こういう生き方もあるんだ」って思えるよ。
「普通」という呪縛から解放されるまで
対談の中で何度も出てきたキーワードが「普通」という言葉だった。
リオさんも結子さんも、それぞれ違う形で「普通でなければならない」というプレッシャーに苦しんできた。
ここでは、その呪縛から抜け出すまでの道のりを語ってもらった。
「恋愛しなきゃ」という無言の圧力
リオ:女性誌とか見てると、「モテる方法」とか「理想の彼氏の見つけ方」とか、恋愛前提の記事ばかりじゃない?
それが当たり前すぎて、恋愛してない自分は何か欠けてるような気がしてたんだよね。
結子:わかる。私も若い頃は「みんなが恋愛してるなら、私もしなきゃいけないのかな」って思ってた。
でも、どう頑張っても興味が湧かなくて。むしろ、無理に恋愛しようとすると疲れちゃうんだよね。
好意を持ってくれた人と付き合ったり、逆にこの人のことは好きなのかもって無理にアプローチしたりしたけど、めちゃくちゃしんどかった(笑)
リオ:社会って、「恋愛→結婚→出産」っていう流れを「普通」として押し付けてくるところがあるよね。
それに当てはまらない人は、どこかで肩身の狭い思いをしてる。
多様性を認め合うことの大切さ
結子:最近、LGBTQへの理解が進んできたのは嬉しいことだけど、アセクシャルはまだまだ認知度が低いんだよね。
「恋愛感情がない」って言うと、「まだいい人に出会ってないだけ」とか「心療内科とか?病院行った方がいいんじゃない?」とか言われることもあって。
リオ:そんなぁ…。恋愛するのもしないのも、どっちも個人の自由だし、そもそも言っていいことと悪いことがあるでしょ。
結子:そう。だから、こうやってリオみたいに恋愛が好きな人と話せるのって、すごく意味があると思う。お互いの違いを認め合うことが、多様性を受け入れる第一歩だから。
それに「多様性」って言葉で、これもまたひとくくりしなくていいんじゃないかと思うし。
「自分の人生」を取り戻すために
リオ:今日、結子と話してみて思ったのは、結局「自分の人生を生きる」って、他人の価値観に左右されないことなんだなって。
恋愛体質でもいいし、アセクシャルでもいい。なんでもいい。大事なのは、自分がどう生きたいかってことだよね。
結子:本当にそう。私も、「恋愛しない人生は不幸」って思われがちだけど、全然そんなことないって伝えたい。自分が満足してるなら、それが一番の幸せだから。
意外な共通点「自分を大切にする」という答え
対談を終えて、二人が辿り着いた結論は意外にもシンプルだった。恋愛に対する姿勢は違えど、「自分を大切にする」「自分らしく生きる」という点では完全に一致していたのだ。
幸せの形は自分で決めていい
リオ:結子と話してて気づいたんだけど、私たちって結局、似たようなことで悩んでたんだね。
「普通」っていう枠にはまらなきゃいけないっていうプレッシャー。でも、そんなもの気にしなくていいんだって、今日改めて思えた。
結子:うん。恋愛してもしなくても、結婚してもしなくても、どっちも正解なんだよね。
大事なのは、自分が心地いいと思える生き方を選ぶこと。
他人にジャッジされる筋合いはないし。それこそ放っておいてって(笑)
お互いの違いを認め合える関係
リオ:これからも、私は恋愛を楽しむと思う。でも、結子の生き方を知って、「恋愛がすべてじゃない」って思えるようになった。それって、すごく大きな変化だと思う。
結子:私も、恋愛体質の人の気持ちが少しわかった気がする。リオが恋愛を通じて幸せを感じるなら、それは素敵なことだよ。
ただ、それを「みんながそうあるべき」って押し付けなければいいだけ。
リオ:本当だね。お互いの違いを尊重し合える関係って、友情でも恋愛でも、一番大事なことなのかもしれない。
これからの時代に必要なこと
結子:もっと色んな生き方が当たり前に認められる社会になったらいいなって思う。
恋愛する人もしない人も、結婚する人もしない人も、どれも対等に尊重される世界。
リオ:そうだね。そのためには、こうやってお互いの違いをオープンに話すことが大切なのかも。知らないから理解できないっていうのは、すごくもったいないことだから。
でも…やっぱりひとそれぞれ。無理に話さなくてもいいよね。
おわりに
恋愛体質のリオさんとアセクシャルの結子さん。
一見、正反対に見える二人の対談は、予想以上に多くの共通点を浮き彫りにした。
それは、「社会の『普通』に縛られず、自分らしく生きたい」という願いだ。恋愛するかしないか、結婚するかしないか。
そんなことは、本来誰にも強制されるべきではない。大切なのは、自分が選んだ人生を、自信を持って歩むことなのだから。
この対談が、恋愛に悩む人にも、恋愛に興味がない人にも、少しでも生きやすさのヒントになれば嬉しい。
あなたの人生は、あなたが決めていい。
誰かの価値観ではなく、自分の心が「これでいい」と思える道を選ぶ勇気を、私たちは応援したいと思うし、彼女たちが繰り返し言っていたように、放っておくことも必要だ。
リオさんも結子さんも、これからそれぞれの道を歩んでいく。その道が交わることもあれば、離れることもあるかもしれない。でも、それでいい。
あなたの人生が、あなたらしい色で満たされますように。
文/AKI